フランスでも、日本でもとっても人気なカフェオレボウル。
私も大好きなカフェオレボウル。
ここではカフェオレボウルの秘密をご紹介します。
カフェオレボウルの刻印とその見分け方については、本 Marques de le bol francais に詳しくあります。 詳細は右の写真をクリックしてください。 |
カフェオレボウルの名称について
カフェオレボウルは日本ではカフェオレボウルと呼ばれていますが、フランスでは ただ単にBol、またはPetit dejeuner bol と呼ばれています。
Bolとはボウル(おわん)という意味で、Petit dejeuner bolとは朝食用ボウル(おわん)、という意味です。
実際に今ではコーヒーを飲むため、というより、コーンフレークを食べるために活躍している場合が多いんですよ。
また、カフェオレボウルは19世紀ではスープボウルと呼ばれていました。
スープを食べるためのボウルだったのですね〜。
スープにはパンを浸してスプーンですくって食べるのがフランス風。
19世紀のBOLは、スープを食べるときについた傷がボウルの底についている場合が多いのはそのせいなのです。
また、スープ用なので、大きいのも特徴です。
昔のボウルはこんなに大きいです(小さいほうが通常の大きさのボウル)。
カフェオレボウルの歴史
ヨーロッパでコーヒーが飲まれだしたのが1800年代。 1870年ぐらいには中流家庭で一般的になりましたが、まだまだ庶民には高嶺の花。
人々が朝食にがぶがぶ飲めるぐらい一般的になるのは、1920年代ぐらいからになります。
このころから今の大きさのカフェオレボウルが盛んに作られるようになりました。
それでも昔の癖は早々変わらず、コーヒーにもパンを浸してスプーンですくっていたので、1920〜40年代ぐらいのボウルにはやっぱり底にスプーンの傷がついていたりするんですよ。
カフェオレボウルは日常に使うものだったので、ほとんどのものが陶器製です(たまにガラス、磁器製の物もありますが、昔は陶器の方が製作が簡単なので日常使いの食器の多くは陶器製でした)。
19世紀後半までは、ろくろで一つずつ作っている場合が多いので、一つ一つの形が微妙に違います。
また、20世紀中盤までは、絵付けもハンドペイント、または絵柄のはんこやステンシル加工もを手作業でつけていっていたので、一つ一つの模様が微妙に違っています。
そんなところも、なかなか味わいがあるのが、アンティーク カフェオレボウルですね。
こちらは同じ商品ですが、手作りなので形が微妙に違います(こちらは1870〜1900年ぐらいのものです)。
1930〜40年代以降になるとDemi Porcelineと呼ばれる、半分陶器、半分磁器のカフェオレボウルがたくさん登場します。
こちらは陶器より硬くて強いので、傷がつきにくくなります。 また、地がちょっと青っぽい白&厚さが薄めなのが特徴です。
現代のカフェオレボウルはほとんどがDemi Porcelineの物のようですが、厚さが結構あります(5mmぐらいはあるのではないでしょうか?)。
また高台がくびれ型でなく、まっすぐなシンプルなものが多いような気がします。
柄の変遷
カフェオレボウルといえども、流行の波に乗らなければ!ということで、時代によって柄がずいぶん変わります。
1920〜30年代 アールデコ柄 | モロッコ柄 1940年代 |
お花のステンシル 1930〜50年代 |
1950年代 幾何学模様 | 1960年代 | 1970年代 POP柄 |
1920〜40年代はアールデコが一斉を風靡したので、直線的なアールデコ柄が多いですね。
モロッコが植民地だった1912〜56年にはモロッコ柄と呼ばれる、アラビア系の柄や色(濃い緑、エンジ、青)を使ったボウルが作られました。
バラやカーネーションなどの花のステンシルは1950年代以前に多いようです。
50年代は第2次世界大戦後の自由な気分から発祥した若いアーティストによる、自由奔放なデザインの陶器がたくさん出た時期でもあります。 ビビッドな黄色&黒、オレンジ、幾何学模様などの普通食器には使われないような色、デザインのカフェオレボウルもたくさん作られました。
1950年代後半ぐらいから、この激しいデザイン性が収まり、シンプルな水玉、ストライプ柄などのシンプルなものが登場します。 1970年代になりますと、POPなデザインされた柄も多くなります。
カフェオレボウル メーカー
フランスにはたくさんの陶器メーカーがあり、そのほとんどがカフェオレボウルを作っています。
そんな中も有名なカフェオレボウルを作っていたメーカーをご紹介します。
商品の年代、刻印の年代はきちんとした資料が残っていないので、こちらのアンティークディーラーの経験による目利きになりますので、ご了承ください。
Digoin (ディゴアン) & Sarreguemines (サルグミンヌ)
1790年、N H Jacobi氏によって、フランスとドイツの国境の町 Sarreguemines(サルグミンヌ)にサルグミンヌ窯が始まりました。
サルグミンヌは品質のよい陶器製作会社としてナポレオンも顧客になるほどの、大きな会社になりました。
さて、ディゴアンのほうですが、Digoinという地域に19世紀にすでに窯がありました。 これをディゴアン窯といいます。
このディゴアン窯は、大手の窯ではなく日本で言う有田焼などにあるようにその地域にたくさんの小さな窯が集まっている、といった感じのものでした。
さて、1870年、Sarregueminesがフランス領からドイツ領となりました。
そして、フランスへの陶器の輸出に莫大な税金を課されることになってしまったのです。
これでは商売あがったり、ということで、サルグミンヌはフランスのもっと内地に別途の窯を持つことにしました。
その白羽の矢が立ったのが、Digoin地域。
地域上の利点(大都市に近い、水路、陸路も便利)もさることながら、セラミック、グレー陶器、陶器の工場もあるので、移動先にはぴったりだったのでした。
こうして、サルグミンヌはDigoinにやってきたのです。これが1879年のことでした。
Digoinに腰を落ち着けたサルグミンヌは、Sarregueminesから技術者を呼び集めました。
このサルグミンヌの技術力とDigoinの利便性が一緒になって、今でも人気のディゴアン&サルグミンヌ窯となったのです。
このディゴアン&サルグミンヌ窯は1879年から1970年まで続きます。
2つの窯が一緒になってからも、単独サルグミンヌマーク、単独ディゴアンマーク、サルグミンヌ・デイゴアンマークと3種類のマークが使われていました。
そして、1970年代からサルグミンヌマークは消失します。 その後はサルグミンヌの現代的な刻印が取って代わるようになります。
今、サルグミンヌは3つのグループに分かれています。
一つはサルグミンヌグループ、これは磁器製作のトイレの便器などを作っています。
2つ目はディゴアングループ、これは磁器(セラミック)の食器を作っています(陶器は作っていません&ディゴアンマークは使っていません)
3つ目はLuneville-St Clement、これはLuneville、St Clementの名前で陶器を作っています(Luneville-St Clementの歴史は下にあります)
デイゴアン&サルグミンヌのカフェオレボウル 色々
1910〜30年代製スープボウル ステンシル加工+ハンドペイント |
1920〜40年代製ステンシル加工
|
1940〜50年代製モロッコ柄
|
1940〜50年代製ステンシル加工
|
1950〜60年代製ステンシル加工
|
1970年代製 ステンシル加工
|
Luneville-St Clement (リュネヴィル サンクレモン)
リュネヴィル窯は1728年、Jack Chambrette氏が始めたもので、当時は貴族などの上流階級に高価格の食器を製作していました。
1749年には領主ご用達にもなっています。
1758年にはSt Clementという地域に第2の工場を作りました。
Jack Chambrette氏がお亡くなりになったころ、Kellerファミリーとその友人GuerinファミリーがこのStClementを経営することになり、これが今のリュネヴィル窯の元となりました。
マリーアントワネットの保護のもと、1892年までは独立した会社でしたが、その後、Keller-Guerin団体として法人化します。
1800年代後半からリュネヴィル窯は新しい技術を導入し、デザインもその当時の流行であった日本趣味、アールヌーボーを取り入れるようになってから、爆発的にリュネヴィルは大きくなります。
1900年代初期にはヨーロッパでも1、2を争う陶器会社となりました。
しかし1922年、リュネヴィルはバドンヴィレーと合併します。 このころのカフェオレボウルには刻印がはいっていないものもたくさんあります(数字のみ入っていることが多いようです)。
1979年にはリュネヴィル・バドンヴィレーはサルグミンヌ傘下になりました。
今でもサルグミンヌグループのリュネヴィルはLuneville-St Clementのマークで陶器を作っています。
今現在見られる、昔のステンシル柄のカフェオレボウルの復刻版を作っているのは、このサルグミンヌグループのリュネヴィルです。
1930〜40年代製 ハンドペイント |
1950年代製 | 1950年代製 | 1950年代製 | 1920〜40年代製 | 1950〜60年代 |
Badonviller (バドンヴィレー)
1897年 Femal氏によってBadonviller近郊の村で始まりました。
BadonvillerはLunevilleと地域的には一緒のところにあり、1922年にはLunevilleと合併します。
1979年にはサルグミンヌの傘下になります。
この時期のLunevilleで作られたカフェオレボウルには刻印が入っていないものもありますが、Badonvillerで作られたものはBadonvillerマークがはいっているようです。
1930年代ぐらい 珍しい青&黒+銀ライン |
1940年代ぐらい | 1930年代ぐらい | 1940〜50年代 | 1930年代ぐらい | 1960年代ぐらい |
Saint Amand les Eaux (サン アマン レゾウ) Moulin des Lopus(ムーロン デ ループ) Orchies(オーチー)
サン アマンは1718年に P J Fauquez氏がベルギーとの国境にある町Saint Amandにて始めたもので、はじめた時から一貫して、シンプルな田舎風のデザインを中心に作っていました。
1800年代には東洋デザインの影響もかなり受けて、発色のよいきれいな色を出すように、大変な研究をしました。
特に青、紫はサン アマンの十八番とも言うべきものでした。 これでサン アマンは有名になりました。
このサン アマンのまたの名をMoulin Des Loupsといいます。
カフェオレボウルはこのSait Amandの刻印のものも、Moulin Des Loupsの刻印のものもあります。
Moulin des Loups自体は1920年代にベルギーの陶器会社Orchies・Hamageと合併しました。
このころからよくみられる風車マークの刻印&OrchiesかHamageの文字が入るものが使われるようになりました。
このOrchies・Hamage・Moulin des Loupsはカフェオレボウルもさることながら、Cafe&Pub商品もたくさん作りました。
1962年には全ての工場が閉鎖、倒産してしまいましたが、1970年代に工場の一部がNidervillerに買い取られ、今でも少しずつですが、生産を続けています。
1940年代製 アールデコ柄 Moulin |
1940年代製 St Amand | 1940〜50年代 St Amand Moulin Hemage | 1900〜1930年代 St Amand | 1910〜20年代製 St Amand |
1950〜60年代製moulin des loups |
1900〜20年代製 St Amand |
Quimper (カンペール)
カンペール窯は1690年J B Bousquet氏によって作られました。 フランスでもとても人気の高いカンペール焼きですが、その理由は1690年からつづく、一貫したハンドメイド、ハンドペイントにあると思います。
柄はカンペール焼き独特のもので、他に類を見ません。 刻印、マークも非常によく記録されていて、年代も分かりやすいのです。
ハンドメイドなので、数もあまり出ません。 フランスでは結婚式の引き出物として、結婚生活を始めるに当たって必要な食器セットとして非常に人気があります。
最近ではあまりの人気なので、偽物も出ているそうです。
カンペール焼きのカフェオレボウルで一番よく見るタイプがボウルの内側に人がかかれたもので、外側には名前が書いてある、というもの。
これはブルターニュのお土産屋さんに行くと必ずあります。 自分の名前のボウルを買うのです。 こういうところも手作りならではのカンペール焼きですね。
1943〜68年 | 1922〜1968年 | 1922〜1968年 | 1984年〜 | 1960年〜 | 1922〜1968年 |
HBCM Creil Montereau (クレイ&モントロー)
1796年 Creil窯が発足し、HBCM Creil Montereauの歴史が始まりました。
当時のCreil窯の社長St Cricq Cazaux氏がもう一軒Montereauという場所に1745年にMontereau窯を発足させました。
1840年 St Cricq Caxaux氏がなくなり、Creil窯とMontereau窯が合併しました。
1920年にCreil-MontereauはChoisy le Roi社に買収されます。 1924年にはHyooplyte Hautinが会社に参加し、1936年には今言う、HBCM Hyppolyte-Boulanger Creil Montereauという会社名になりました。
しかし、残念なことに1955年にこの窯は閉鎖となりました。
1930年代ぐらい ハンドペイント | 1870〜1900年ぐらい | 1950年代ぐらい | 1940年代ぐらい | 1950年代ぐらい |
Gien
Gein社はフランスを代表する陶器会社の一つです。
現在も現存する会社で、日本語のサイトもあります。http://www.gien-japan.com/
ジアン社の歴史は、このサイトに詳しくあるので、割愛します。
ジアン社の刻印マークは1829年から使用され始めました。 大体10年ぐらいをめどに変えていたようです。
きちんと記録が残っているので、年代も分かりやすいです。
1886〜1938年 | 1886〜1938年 | 1950年代ぐらい | 1886〜1938年 | 1886〜1938年 | 1950年代ぐらい |
Limoge
日本でも有名なリモージュ焼ですが、リモージュ焼のカフェオレボウルももちろん少ないながらあります。
1771年に始まったリモージュ焼ですが、その真髄は、真っ白な陶器(磁器)に金銀を施した柄にあります。
リモージュは七宝焼きでも有名で、特に小さなピルボックスと呼ばれる陶器製の箱が有名です。
リモージュ焼のカフェオレボウルは、この七宝焼きを髣髴させる、派手な柄が特徴です。
ガラスのカフェオレボウル
フランスの大手耐熱ガラスの会社 Arcopalが1960年代ぐらいから、かわいらしい柄のカフェオレボウルをたくさん作りました。
今でもこの耐熱ガラスのカフェオレボウルはスーパーなどで売っていますが、無地(白)のみのようです。
下の写真で唯一古いのは緑のガラスのボウル。 これは1950年代ぐらいのものです。
フランス以外のカフェオレボウル
フランス以外でもたくさんのカフェオレボウルが作られていました。
やはりコーヒーをよく飲む国がほとんどです。
ベルギーのカフェオレボウルはフランスでも高い評価を受けています。幾何学模様の素敵なデザインが多いのが特徴です。
イタリアはシンプルなタイプのものが多いです。 今現在フランスのスーパーマーケットで売られているカフェオレボウルのほとんどがイタリア製です。
ポルトガル製はぽってりとしたシェープが特徴です。 ハンガリー製はあまり見かけません。
ポルトガル製 1970年代 | ハンガリー製 1960〜70年代 | ベルギー製1930〜40年代 | ベルギー製1930年代 | ベルギー製1930年代 | 1980年代イタリア製 |
変わったカフェオレボウル
耳つき
ボウルを製作するときに高台をつけるよりは耳をつけるほうが簡単なので、小さな窯では耳をつけたボウルをよく作っていたようです。
もちろん例外があり、カンペール窯のカフェオレボウルなどはほとんどが耳が付いています。 これは技術がどうのこうの、というより、デザイン性でそうなっているようです。
1940年代製 | 1960年代 ディゴアン製 | カンペール 1922〜68年 | カンペール1984年〜 | 1950〜60年代 | 1960〜70年代 |
1960〜70年代 サルグミンヌ製 |
文字入り
文字入りは大体が広告がはいったもの、お土産(プレゼント用)です。 数が少ない上に1920〜50年代ぐらいの古いものが多いのが特徴です。
プレゼント用 | 広告入り | 広告入り | お土産用 | お土産用 |
こちらに書いた事項は、当店の商品をお買い上げなさるときに指標となれば、と思い、書いているものですので、史実が多少ずれているところもあるかもしれません。
特に商品の年代、刻印の年代はきちんとした資料が残っていないので、こちらのアンティークディーラーの経験による目利きになりますので、ご了承ください。
また、この内容の転載等は硬く禁じます。
参考資料
雑誌 Antiquites Brocante
Marques et Signatures dela Faience Francaise